ロリ姉
VS
牛乳
作:紅アゲ



 昼休み、校内購買部はいつも生徒でいっぱいだ。

一階の細い廊下のはじっこに一つしかないからいつもいつも生徒達でごちゃごちゃになっちゃってる。

そぅ、戦場なの。

でーもー、あたしは平気。

普段はとっても気にしてる身長140センチ(ホントは139センチ)がこういう時にはとっても役立つのよん。

「えへへっ!」

 あたしはみんなの足元からメロンパンとカスタードパンを手に這い出た。

 あたしの体はちっちゃいからみんなの足元の隙間をぬってすぐにカウンターにいけるのだ。足元ならいっぱい隙間があるもんね!

さて…。だけどこのちっちゃい体はパンを買うだけならとても役立つけど…。問題はジュースを買う時。

あたしの通う織姫高校はパンとかは購買で買えるんだけど…。ジュースは各階にある自販機で買わなくちゃいけないの。

で、その自販機なんだけど…。

「…やっぱり手が届かない…」

あうぅ…。やっぱり背が低いのは損だよぉ。

あたしが目いっぱい手を伸ばしても一番上の棚にあるオレンジジュースのボタンに届かないのっ。

近くに踏み台があればいいけど…どこにもないや。教室のイスを持ってくるのも結構重労働だし。

 それに、ただでさえロリ姉って言われてるからもしイスなんて使ったら……負けだと思う。

 しかたないや。ジャンプしてぽちっと押しちゃえ。

「せーの」

 とうっ。

 あたしの足が地面から離れた。そして手はオレンジジュースのボタンに……。

ぽちっ。

ぴっ。

ガタン。

 いかなかった。

 出てきたのは紙パックに包まれた牛乳…。ソラ印乳業の五〇〇ミリリットルパック。

 うっへぇ…。

 あたし、牛乳飲めないのよぉ…。

 昼休みも半分を過ぎた。

 あたしは机の上の牛乳を昼休みの時間ずっと見つめてた。

 すでにメロンパンとカスタードパンは飲み物なしで全部食べちゃってる。飲み物なしでパン食べるって結構苦しい。でも唯一ある飲み物が牛乳じゃあなぁ…。

 うへぇ…。

もうジュース一個買うお金はもう無い。あたしは無駄遣いぐせがあるからなるべくお金は持ち歩かないようにしてる。今の所持金は

…四〇円…。

 水道の水を飲むっていう手もあるんだけど…。パンに水は嫌だなぁ…。

「にゃんにゃん。藤咲ちゃ〜ん、どうしたにゃ?」

 あたしがうつむいてると、前から見たことある顔が覗き込んだ。

垣くんだ。中性的な顔立ちでいつもネコ語を話すクラスメイト。あたしの屈辱的な呼び名『ロリ姉』を広めた張本人だったりする。

まぁ、基本的にはひとなつっこいいい友達なんだけど。

「なにか問題でもあったのか?」

 もうひとりの声。垣くんの隣から無表情な男の子が出てくる。手にはB5サイズのちっちゃいスケッチブック。

 垣くんの友達の三郎くん。いつも涼しい顔した男の子、三郎くんのノートにはいつも女の子の絵が描いてあったり。

この前頼んであたしの絵を描いてもらったらとっても恥ずかしい格好の絵で思わず赤面しちゃった経験がある。

「ん〜? 牛乳みつめてどしたにゃ?」

「藤咲。お前牛乳のめないのか?」

 こっくり。

 頷くあたし。

「じゃあなんで牛乳買ったんだよ」

 うひっ。三郎君の目があたしを貫くように光った。なんかいつも涼しい顔だから責められてるみたいになっちゃって、あたしは首がすくんだ。

「えっとね…、自動販売機が」

「手が届かなかったのか」

 あう、三郎君すぐわかっちゃった。むかし三郎君に『お前の行動はわかりやすい』って言ってたけど、本当にそうみたい…。

「間違えて買っちゃったんだね」

「うん」

「じゃあ僕ちゃんが奢ってあげようかにゃ?」

「え、いいの?」

「かまわないよ。藤咲ちゃんにはいつもいつも楽しませてもらってるからね」

 楽しませ…? え、何を? 垣くんはあたしの何を見て楽しんでるの!?

 聞こうと思ったら、涼しい目の三郎くんが聞いてきた。

「藤咲、なにが飲みたいんだ?」

 うーん、やっぱり。

「オレンジジュース!」

「おっけー、オレンジジュースね。じゃあ一緒に買いにいくにゃっ!」

 垣くんが手を出した。一緒にいこうっていう手だ。

 らっきいっ! あたしも手を伸ばす。

 が。

「ダメよ!」

 あたしの背後から突然手が伸びて、垣くんの手を握ろうとしたあたしの手をぎゅっと握りとめた。

 ほえっ! 何?

「ダメダメダメ! ねねこを甘やかしちゃダメだっての!」

 そのまま腕があたしの首に絡み、あたしの背中にふにゃりとした柔らかい体がひっついた。

「さやちゃん…っ」

 青髪さやか。首にはヘッドフォン右手にはいつも木刀と、まるで学校の生徒規則に反抗するような格好の女の子であたしのおともだち。ちなみにさやちゃんは木刀持ってるのはべつに流派とかがあるわけじゃなくただ単にカッコいいからだけらしい。

「ねーねこ。アンタも知らない人から簡単に物貰っちゃダメってお母さんから習わなかった!?」

「俺ら知らない人呼ばわりかい」

 三郎くんが眉間に眉を寄せる。

「そーよ! とくにアンタはこのクラスの不信人物としてブラックリストにのってんのよ」

「ブラックリストに載ってるのはさやかじゃにゃいか……ふがっ」

 ちなみにさやちゃんは暇な時はいつもあたしにくっついてる。

 痛いところを突いてくる垣くんをさやちゃんは木刀で静めつつ(あー、たんこぶできてる)

「垣! アンタが甘いからねねこがせーちょーしないのよ!」

 さやちゃん、関係ないと思うけど…。

「ところで今の『せーちょー』はどっちの意味の『せいちょう』だ? 『成長』か? それとも『性徴』のほうか?」

 三郎くん、なに聞いてるの。

「どっちもよ」

「僕ちゃん、個人的には『性徴』してくれないほうが好みだけどにゃ……ふがっ!」

 あたしを無視してどんどん掛け合いが進んでく。垣くん二度目。

「ねねこ! アンタもアンタ!」

 今度は矛先があたしに! ひーっ! さやかちゃんって怒ると結構怖い!

 さやかちゃんとあたしのほっぺたがあたるくらいぐいっと顔を近づけられてる。

「そうやって、『牛乳のめなーい』とか『背が届かなーい』とか言ってるからアンタはロリ姉って言われるのよ! ちったあ改善しなさい!」

 はっきり言われた。

「で、でもぉ…」

 そんなこといわれても…。キライなものは仕方が無いし、背は簡単に伸びるんだったら苦労しないよぉ!

「ロリ姉ロリ姉って…一番言ってるのはさやかだろ」

「さやかも結構背が低いクセににゃ」

「シャラップ!!」

 さやちゃんは恒くんに襲いかかった。木刀をひゅんひゅんと振り回すけど、恒くんは上手く避けて全部かわしてる。

ちなみに…さやちゃんはこのクラスであたしの次に背が低い…。まぁあたしとの差は一〇センチ越えてるんだけどね。

「しかしな、藤咲。やはり牛乳くらいは飲めたほうがいいと思うぞ」

 しばらく二人の攻防を見ていた三郎くんだけど、ちょっと思案するように口元に指をあてて言葉を吐いた。

「もしかすると、牛乳が嫌いなせいで成長が止まってしまったのかもしれんしな」

 んー、確かに。牛乳飲まなかったもんなぁ。

「牛乳はいろいろな料理に使われるにゃ」

 いくらかたんこぶをつけた恒くんが帰ってくる。あーあ、さやちゃんの前で身長の話はご法度なのに…。

 それもわかってる。けど…。

「ねねこ。アンタも本当は牛乳飲めるようになりたいんでしょ?」

「う…」

 なりたい…。

「うん」

 すると、さやちゃん恒くん三郎くんの目が、いっせいにキュピーンと光った(ような気がした)。

「じゃあキマリだな」

「え?」

「僕ちゃんたちの力で藤咲ちゃんが牛乳を飲めるようにしてあげるにゃ」

「ええ?」

「題して…」

「「ロリ姉に牛乳を飲ませるをプロデュース!!」」

「内Pかい」

 呆然としたあたしを置いて、三郎くんが冷たくつっこんだ。



 と、タイトルコールが済んだ所で。

「ところで、藤咲ちゃん。なんで牛乳飲めないのかにゃあ?」

 恒くんがメモを片手に訊いた。

 まずはあたしの牛乳に対する悪印象を知りたいらしい。

 あたしは、とりあえず思いつく限りで言ってみる。

「…うーん…」

 でもよく言えない。そうだよ、人の好き嫌いって理由なんて無いんじゃないかな。弟はトマトが食べられないけど、理由は「なんとなく」だったし。

 でも、みんなは明確な答えが欲しかったみたい。

「なんかあるでしょ? ほら〜…」

 さやちゃんがぐいっと詰め寄る。でもなぁ、そんなこといわれても…。

「にゃんかにゃいのー?」

 うーん…。

 わからない…。

 あたしが答えられずにいると、三郎くんが助け舟を出した。

「ヨーグルトとかは食べられないのか? チーズは?」

 あ、それなら答えられる。さすが三郎くん、いつも大人の雰囲気をかもし出してるだけあってあたしの答えやすい質問を選んでくれる。

あたしの中で三郎くんの好感度がちょっぴりあがった。ぴんぴろりん♪

「ヨーグルトは大丈夫。コーヒーとかも飲めるけど…」

「そうにゃっ!」

 恒くんがひらめいたっ!ってみたいに手を叩いた。

「いい方法があるにゃ〜」

 いい方法?



 どんっとあたしの前に置かれたのは一本の缶コーヒー。恒くんが買ってきたやつだ。

 あたしの前に牛乳のパックとコーヒーが二本並んだ。

「これをちょっとづつ牛乳に混ぜていくにゃ。最初にコーヒーだけ飲んで、だんだん牛乳に慣らしていくにゃよ」

「なるほど、じょじょに慣らしていくのは飲ませる時の基本だからな」

「何を飲ませる時の基本?」

「もちろんせ…」

「んコラ!」

 えっと、三郎くんの言ってる事はわかんないけど…。とりあえずこの方法が一番いいって事かな?

三郎くんはさやちゃんに叩かれた頭を抑えながらあたしに向き直った。

「よし、じゃあまずはコーヒーだけで飲んでみよう」

 紙コップに缶コーヒーの中身が注がれていく。あうっ、コーヒー…まっくろだ。恒くんブラックコーヒー買ってきたのぉ?

あたし、コーヒーは砂糖七つ入れないと飲めないのになぁ…。

 紙コップの五分の一ぐらいなところで恒くんは缶をあげた。飲むのがちょびっとだったのはふこうちゅーの幸いかな?

「ほら、さっさと飲んじゃって」

 さやちゃんが紙コップを持つと、あたしの目の前にぐいっと押し付ける。あたしはそれを貰うと、紙コップの中のコーヒーを凝視した。茶黒い液体…。

「まずはブラックからいってみよぉー」

 うー。どうやら絶対に飲まないといけないみたい…。

牛乳の前からいきなり苦手なもの飲むってどういうことよぅ!

 でも飲むしかない。あたしは意を決すると紙コップに口をつけ。

「くぃっ」

 一気に全てを飲んだ。

「うへぇ、にがぁい……」

 口の中に苦味が広がる。なんだか焦げた灰の汁を飲んでるみたい。

「苦かったか?」

 何故か三郎くんが頬を染めながら聞いてくる。どしたんだろ。

「うん、苦いよぉ〜」

「ねねこは苦いのも苦手なのね」

 うん…。さやちゃんがやれやれといった風に首を振った。

「にゃう。じゃあ次からは砂糖入れよっか」

 え。

 恒くんはカバンから袋入りグラニュー糖をとりだし、どんっと机に。

「ええーっ!? 砂糖あったのー!?」

 あたしは大声を出した。我慢して砂糖なしで飲んだのにっ!

「恒。砂糖どうしたんだ」

「さっきコーヒー買うときに調理室からパクっておいたにゃ〜」

 じゃあなんで最初に出さなかったの!?

「藤咲ちゃんに苦いもの飲ませたらどう反応するか見てみたかったにゃっ!」

 悪びれも無く言ってる! もう、恒くんひどいっ。マイナスじゅっぽいんと!

「まぁ過ぎたことはいいじゃない。とりあえず今はねねこが牛乳飲めるようになるのが先よ」

 さやちゃんは珍しくあたしの味方してくれなかった。

「ほーら、次々。次は1:4の割合でやってみましょ、ねねこ。砂糖は?」

「二杯…」

 はぁ…。なんか一杯目でもう疲れたよぉ…。



 そして…、

「よーしラスト。牛乳のみだ」

 開始から一〇分。なんとか砂糖の力を借りて飲んでいったコーヒーと牛乳は、十杯目でついに牛乳のみを残すだけとなっちゃった。

はぅ、おなかがたぷんたぷんする。

「よーしっ! これさえ飲めれば牛乳なんて怖くないにゃ!」

「がんばるのよ! ねねこ!」

 応援してくれるのは嬉しいけど…。やっぱり嫌なもんは嫌…。すでにあたしの机の上には缶コーヒーと牛乳パックのカラが何個も積み重なってる。これ全部あたしが飲んだんだよね…。太っちゃいそう。

「ほら、飲むんだ」

 ぐいっと牛乳が近づけられる。

「い…嫌っ」

 あたしは首を横に向けて拒否。

「ここまでやったんだから飲みなさい」

 さやちゃんが目を吊り上げるけど。

「嫌っ!」

 ここまでやったんだからもういいじゃない! コーヒー1:牛乳9のヤツもがんばって飲んだんだよ!(砂糖は三杯入れたけど) だから…もういいじゃんー。

「飲みなさいっ!」

「飲むにゃ!」

「飲むんだ!」

 全員の目が吊り上がり、あたしに迫る。〜〜〜〜!! あたし、逃げ場なし〜!

 わ…わかったよぉ!

「飲むよぉ! 飲めば良いんでしょぉ!」

 あたしは紙パックをひったくると、一気にかたむけ白い液体を口に含んだ!

 !!

「けほっ!」

 きかんしーーーっ! 気管支にはいっちゃった!!!

「けほほ! けほっ」

 思いがけず牛乳をコップの中に吐き出しちゃう。でも吐き出した牛乳は紙コップにぶつかり、そのままあたしの顔へ。

 びちゃっ。

 あぅー…。あたしの顔…牛乳だらけになっちゃった…。

「こ…こんなの飲めないよぉ……けほっ」

 しかもキライのものだからものすごい不快感に口が支配されてる。あたしは涙目になってた。

 さぞかし、みんながっかりしてるだろう。

こんなに努力したのに、全然飲めなかったのだから。

「みんな…ごめんねぇ…。やっぱり無理……」

 しかし。三人の顔はがっかりしてなかった。

 何故かみんな、牛乳だらけになったあたしの顔を。


ピロリン。


 携帯で写真を撮ってた。

「え?」

「恒、俺らは一生で一度あるかないかの光景に出会えたぞ」

「セリフも完璧だったにゃ」

「個人的にあたしは無理矢理は好きじゃないけど…これはそそるわ……」

 何故かあたしの顔を見ながら全員が顔を赤らめかつニヤけてる。

え、あたしの顔…そんなにおかしい?

「恒、お前録画したのか」

「うん。あ、僕ちゃんさっき藤咲がコーヒー飲んだときに言った『苦い…』も録音しておいたにゃ」

「いつのまに…」

「まったく、アンタ油断も隙もあったもんじゃないわね」

「あ、そんなこという人にはこの録音データあげないにゃ」

「ごめんなさい。その録音データ下さい」

「わかればいいにゃ」

「恒、俺にもくれ。家に帰ってCD‐Rに焼き付けるから」

「オーケイ」

「あたしのロリ姉観察帳にも加えとくわ」

 えっと…あの、みんな。何話てるの…?

 すっごいみんなから邪なオーラが出てるんだけど…。

 えっと、あたし牛乳飲めなかったんだけど…。もういいの…?


「「「ロリ姉サイコーッ!!!」」」


「ひっ!」

 三人がいきなり大声でガッポーズ!

 もう、みんな牛乳の事は忘れていた…。

あたしは三人から何故か歓喜の笑みで握手された。

 わけわかんない…。

でも、もう牛乳の事は何も触れなかったので。

(これでいいのかな…?)

 なんかよくわかんないままあたしはみんなの握手に応えていた。

 みんなは何であたしを称えたんだろ…?

 それは、あたしにとって永遠の謎だ。



 その日、あたしはコーヒーの飲みすぎで眠れなかった。

 そして次の日、あたしは下痢で学校を休んだ。


―――――END



今回の話を書いて:
@エロい。今後擬似エロは控えようかな。
Aさやか、恒、三郎の三人の掛け合いは書いてて面白い。けどロリ姉目線で書くとちょっと説明不足気味になっちゃうかな?
B十五枚程度に収めるつもりが、やっぱりオーバー。
C展開に無理あるかな? 後半クオリティ低いわ。
Dキャラ、さやか。某チャットでお世話になっているロリ姉ニストさやかさんを招待。と言っても…つっこみ系にするつもりが、暴力的なキャラに…。すいません。木刀とヘッドホン、もちろん元ネタはアレです。ありがとうございました。
Eキャラ、恒。同じチャットでお世話になってる暴君ハバネコさん(DJ009さん)を招待。物語の進行役としてとても重宝したキャラになりました。ねこ語なのはご愛嬌。ありがとうございました。
Fキャラ、三郎。某チャットでお世話になってるACさんを招待。冷静なキャラでエロいという位置付けがちょっと独特なキャラになっちゃいました。すいません、そしてありがとうございました。
G弟は今回欠席。次回も出すか微妙。
H次回もゲスト編。今回三人同時ゲストはきつかったので、次回は姉とゲストの二人で物語を進めてみようと思います。
 というわけで次回は『ロリ姉VS巨乳(仮題)』でお送りします。



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