ロリ姉
VS
弟のカノジョの双子姉妹?
作:紅アゲ



 えへへ、あたしは鏡の前でポーズを決めた。

もうすぐあたしの学校で文化祭。あたしのクラスはステージで劇をやるのだ。あたしの役はクラスのみんなが全員一致で決まった『ネコミミメイドさん』の役。

 本当はやりたい役があったんだけど、みんなが「藤咲はこの役以外ありえない」って褒めるから、あたしも調子に乗って「まかせとけー!」っていっちゃった。んー、でもロミオとジュリエットにネコミミメイドなんて役あったっけ? まぁ衣装が可愛いからいっか。

「にゃんにゃん」

 被服部の人たちが作ってくれた衣装を家で着てみた。けっこういいかんじ。メイド服って着てみると可愛いっ。胸元のでっかいスカイブルーのリボンにふんわりとしたスカート。くるりとまわると白と青のフリルエプロンがゆっくり浮いてドレスみたい。

それにこのネコミミ。鈴のピアスが着いてて揺らすごとにちりんちりんと綺麗な音がして楽しい気持ちになってくる。

あたしはさらににくきゅうてぶくろをつけると手首をくるんと傾け招き猫のようにポーズをつけた。えへっ、自分でも似合ってると思うニャ♪

思わずネコ語になっちゃったニャ☆

そうにゃっ! 今日はコレで普段の生活をしてあっくんを困らせちゃえッ。あっくんは人目を気にするタチだからかなり困っちゃうはずだ。いつもいつも苛めてるからそのしかえしニャ! ふふ〜ん、ネコは話Gママな性格なの〜。ついでに晩ごはんもネコまんまにしちゃおっか。

時計を見ると六時半。

そろそろあっくんが帰ってくる時間ニャ。あっくんの中学も文化祭が近く、最近は帰るのがいつも遅い。あっくんが文化祭実行委員長なんだけどね。えへへっ、あっくんは成績が良いうえにスポーツもできて、あたしの自慢のあっくん! それにくらべてあたしは……ふにゅー。

 がちゃっと玄関の戸が開く音がした。あっくんが帰ってきた! よ〜し、作戦開始ーっ! 髪型おっけー! 服おっけー! ネコミミおっけー! にゃりんと玄関へ飛び出した。

「おかえりなさいニャ☆ ご主人様。今日もお努めごくろうニャッ! いっぱい奉仕させていただきますニャ☆ ご飯にするニャ? お風呂にするニャ?」

 えへっ。セリフは学校で渡された台本から引用〜。意味は良くわかんないけど。

「………」

 あははっ! あっくんはまるでハトがゴム鉄砲くらったような顔してる。ぽかーんって口あけちゃって変な顔…。

 ………。

 ……変な顔してたおはあっくんだけじゃなかった。

あっくんの横には一人の女の人が居たの。その人もぽかーんっ。

「………おい」

あぅ、あっくんの呆れた声。そうだよね…、あたしもあっくんの前だけでやるならまだしも、いきなり知らない人の前でコレは……キツイよ。

 女の人が、あたしとあっくんのの沈黙に耐えかねて声を出した。

「あの、先輩…」

コレはあっくんに向けた言葉…。

「この人……誰ですか?」

「……知らない人」

 あうっ!

「お姉ちゃんだよ!!」

 いくらなんでも知らない人呼ばわりしないでよー!


 

「えっ!? お姉ちゃんなんですか!?」

「そうだよ!」

「妹さんじゃなくて!?」

「だからそうだよ!」

「見えませんね…」

「悪かったね!」

 女の人は本当に驚いたようで口をぽかんとあけたまま。この顔は良く見たことある。あたしはよくあっくんの妹に間違えられちゃうの。酷い時には親戚のおじちゃんに間違えられたこともある。あうー。

 ちなみに今のあたしはもう普通の服に戻ってる。あっくんと女の子は中学校の制服のままだ。

 それはともかく。

「あなたは誰なんですか?」

 女の子に聞く。

「あ、すいません。藤咲先輩の後輩の七宮朝香です」

 ぺこりと朝香ちゃんは頭を下げた。腰から四五度曲げてどこかのお嬢様みたい。

 って…。

「後輩!?」

 えっと、あっくんが中学三年生だから…。すくなくとも…。

「はい、二年生です」

「…ぜ…全然見えない…」

 物腰はおしとやかで背は高く(あっくんよりはちょっと低いけど)髪はサラサラでふんわりと腰まで伸びていて、まるでどこかのお金持ちのお嬢様のよう。

「はい、よく言われますよ。とても大人っぽいって」

 はうっ。

「あっくん、もしかして…彼女なの?」

 もしそうだとしたら驚き。あっくんに彼女ができるなんて思ってなかった。あたしだってまだなのに!

「あー、ちがうちがう。そんなんじゃねーよ」

 あっくんは軽く否定しちゃった。その時朝香ちゃんが一瞬残念そうな顔したのをあたしは見逃さなかった。

「こいつはただの文化祭実行委員の後輩。ただそんだけだよ」

「ふーん、でもなんで家に?」

「文化祭の会議が長引いてな。学校じゃ門限があって落ち着いて話し合えないからウチで会議の続きすることになったんだよ」

「へぇー。あっくんは真面目だねー」

 すごいっ、そこまで今年の文化祭に賭けてるんだね。あっくんは責任感強いからなぁ。

「お姉さん、いきなりお邪魔してすいません」

「ううん! いいよっ。あっくんのためならあたしもお姉ちゃんとして協力するもん!」

「いや、姉貴は何もしなくていい」

「はうっ! なんでよぉ!」

「だって姉貴。うちの文化祭関係ないじゃん」

「なによぉ。お姉ちゃんとして、あっくんが会議をスムーズに進行できるようにご飯立て…」

「お膳立て」

「うっ…お膳立てしてあげてもいいじゃない!」

 途中であっくんに訂正されちゃった…。

 ほらっ、コーヒー作ってあげたり簡単な料理を用意してあげたり…!

「可愛い後輩にお菓子をトッピングした料理なんて出せるか」

 くっ。昔ちょっとお菓子を混ぜた夕食を作ったことまだ根に持ってんのぉっ? ほんの一週間前の事じゃない! 柿ピー御茶漬けは美味しいっていってたじゃない!

 ふと見ると朝香ちゃんはちょっと顔を赤らめていた。 うん? どうしたんだろ?

 あたしたちの視線に気付くと朝香ちゃんはぷぷっと吹き出した。

「あははっ、先輩。お姉さんと仲がいいですね」

「仲良くなんかない!」

 久しぶりにあっくんとあたしの声がハモった。どこが仲良く見えるのよう!



あっくんが台所で夕飯を作ってる間、あたしと朝香ちゃんはリビングで二人っきりになった。本当は今日はあたしが夕飯当番だったんだけど、あっくんが朝香ちゃんに料理を作ってあげるといっちゃったみたいなので、当番を譲ってあげたの。

 あたしはリビングのテーブルで向かい側のソファーに座って、企画書を整理する朝香ちゃんを観察してた。

 最初にあっくんに紹介された時の朝香ちゃんはお嬢様って印象だったんけど、今企画書を手にしている朝香ちゃんは敏腕秘書さんというかキャリアウーマンさんのようにビシッとして凄くカッコいい。

パパッと紙の束を片付けていく朝香ちゃんを見てると、あたしはなんだか自分に自信がなくなっていった。

 朝香ちゃんは…あたしと正反対なのだ。

 朝香ちゃんはキレイでおしとやかで体つきも歳の割に大人っぽくて、おっぱいもおっきい。朝香ちゃんが前のめりになるだけで彼女の制服の胸元がぼいんっと服を押し上げる。

あたしの場合は、歳の割に子供っぽくて、体もちっちゃいし、おっぱいは言うまでもなくぺったんこ。

昔雑誌で見たんだけど、兄妹や姉あっくんは自分の肉親とは正反対の人を好きになるんだって。もしそうだとしたらやっぱりあっくんは朝香ちゃんが好きなんじゃないかな…? ちょっとジェラシー。

「あの…お姉さん」

「ほぇっ?」

 いきなり呼ばれたので変な声が出ちゃった。

「あたしの顔に何かついてますか?」

「あっいや、ちがうの…っ」

 あたしは視線をそらした。そらした視線の先には台所で手を動かしているあっくんがいた。

「先輩が気になるんですか?」

 えっ。視線を戻すと今度は朝香ちゃんのほうがこっちを見ていた。印象はキャリアウーマンからお嬢様に戻ってる。

「一つ訊いてもいいですか?」

「なぁ…に?」

「わたしのこと…藤咲先輩から聞いてました?」

 ちらちらと台所のあっくんの様子をうかがいつつ、朝香ちゃんは訊いた。

「ううん、なんにも」

 あたしは正直に答えた。あっくんは学校の事はおろか自分の事までなにもあたしに話してくれない。はぁ、あたしあっくんの事何にも知らないの…。

「そうですか…」

 朝香ちゃんは本当に残念そうな顔になった。

「藤咲先輩…」

「ん…」

「藤咲先輩はよくお姉さんのこと、私たちに話すんです」

 え。

「お姉さんのこと話してるときの先輩ってとっても楽しそうなんです」

 あっくん、あたしのこと話すの…?

「そうですか、何も聞いてないですか、そうですか…」

 朝香ちゃんは自嘲するように目を伏せた。

「…うらやましいな」

「え?」

 よく聞こえなかった。でも、あたしはそっちより朝香ちゃんが弟から何を聞いているのかが気になるなる。

「ねえ、あっくんはあたしのことなんて話してたの?」

「ええ、えっと…どうしようもない姉だって」

 ガーンッ。どうしようもない…。い…い…いくらなんでも酷すぎるよぅ!

「テレビのリモコンとエアコンのリモコン間違えたこととか、かやくを入れ忘れてカップ焼そばつくった事とか」

 はぅっ! あっくん! 何話てるのよう!! あたしの頬がぼうっと火に包まれたように熱くなった。

「でもですね…」

「ん…」

「だからこそ放っておけない、大事な姉なんですって…」

 …。あたしの頬に油が注がれちゃった。大事な姉…。 ううぅっ。いつもあたしを苛めるくせになんでそんなこと言うのよ!

 朝香ちゃんはそんなあたしを見て、穏やかな目をきゅっと細めた。

「負けませんから」

 力強い声で、ハッキリ。朝香ちゃんの口から。

「……」

 え?

「それどういう意味…」

「でーきーたーぞー」

 弟が料理を持ってリビングに帰ってきた。朝香ちゃんはいつもの穏やかな表情に戻ってしまった。さっきの、どういう意味か聞きたかった。でももう訊いても答えてくれないと思う。雰囲気を察知して言葉を止めちゃった。

「姉貴、顔赤いぞ。どうしたんだ?」

「な…っ、なんでもないっ!」

 ごまかすつもりは無かったけど、なんとなく頬を叩いて赤くなった顔をパンパンと叩いちゃった。

「お姉さん、キレイですねって言ったんですよ」

 朝香ちゃんがにっこりとフォローする。

「へえ、姉貴。初めてキレイって言われたな」

「うるさいっ!」

「いつもは可愛いって言われるんだよ、姉貴」

「そうなんですか」

 むぅ! 確かにあたしは褒められる時はいつも「可愛い〜」って言われる。あたしはいつもそれが嫌だった。本当はあたしも綺麗って言われたいのにぃ。んっ、ちょっと待って。今、あっくん…あたしのこと喋った!?

 あっくんの顔を見る。しかし、あっくんはいつもクールな顔。

 あっくんがつくったのは麻婆豆腐。大皿にのっけてふたりで小皿に取り分けて食べるのがいつもの食べ方。今日はふたりじゃないけど。

今日はお皿がひとつ、ふたつ、みっつ…よっつ?

 えっと、あっくんの分とあたしの分と朝香ちゃんの分…あり?

「あっくん、お皿が一つ多いよ?」

「ああ、もう一人来るんだよ」

 え、もうひとり? かっくんと首をかしげちゃう。

 すると。

 ピーンポーン♪

「来たな」

 弟が玄関に大皿抱えたまま玄関へ。

「ねぇ、もうひとりって誰なの?」

「同じ文化祭実行委員でわたしの…」

「おっじゃましまーすっ!」

 どたどたと玄関から駆け込んでくる足音。弟の足音じゃない事は確かだ。

「せんぱーい。リビングこっちですかー?」

「おう。あ、でも今姉貴も」

 どうやら、あっくんよりも先に上がってきちゃったみたい。元気。

 ひょっこりとリビングへ、その子が顔を出した。

その顔は…

「あうっ!?」

 朝香ちゃんそっくり!!

「こんにちわー、じゃなくて…こんばんわー! 藤咲せんぱいにいつもお世話になってますっ、七宮夕香です!」

 七宮…苗字がおんなじってことは…。

「あら、夕香遅かったわね」

「うん、ちょっと電車が混んでてね」

「電車が混んでても遅れはしないだろ」

「あはは、そーだったね!」

「そうですよ、おおかたゲームセンターにでも寄ってたんでしょ?」

「あはは、ごめん。1プレイだけにしようと思ったんだけどね」

「で、ヒプロ3はクリアできたのか?」

「できたよー! ボーダーだけど」

「おお、凄いな」

 えっと、楽しそうに会話してるところ悪いけど…確認させてもらってもいい? あっくん

「ん?」

「えっと」

「ああ、二人は…」

「夕香はあたしの妹です」

「あはは、朝香ちゃんはあたしのお姉ちゃんでーす」

 つまり…。

「双子?」

 いちらんせいそーせーじ? あたしの頭には何故かマルダイの荒挽きソーセージが浮かんでいた。



 七宮朝香ちゃんと夕香ちゃんはあっくんの通う白鶴中学校でも有名な双子でどちらも文化祭実行委員なんだって。朝香ちゃんは副委員長で夕香ちゃんは書記。つまりここに集まってるのは白鶴中学校文化祭実行委員のスリートップってこと。ちょっと凄い気がする。

んでー…。あたしは今…。ちょっと不機嫌。

 食後に夕香ちゃんが持って来た『甘党ベッキ―』のシュークリームをぱくつきながら不機嫌になるって…そうあることじゃないんだけど。今ぱくついてる状況にちょっとむかついてる。

あたしはテーブルの一辺のソファに一人で座ってるんだけど…。

あっくん…。


図解:
 七宮妹七宮姉
      テー    テレ
      ブル     ビ
      あたし


 なーんで、三人でテーブル一辺に集まってんのかなぁ…。

「でもバンドの時間は30分が限度じゃないか?」

「一曲3分だとするとバンド一組につき9分ですから…」

「全員が全員同じ楽器するとは限らないよ。なんか三味線使うところもある見たいだし」

「三味線は…幕閉めて椅子だけ用意すれば大丈夫だろ。その間に裏に準備してもらえば」

「その三味線夕香の友達なんだけどー、なんかヘビメタ三味線って言ってすっごい動くんだって。照明もすっごい凝ってるらしいよ」

「三味線の伝統を壊しまくってるな…」

 しかも、すっごい話こんじゃってるし。あたしの出る幕無し…。

 むー。

 あっくん、両手に花状態。鏡を真ん中に置いたみたいに左右対称ー。朝香ちゃんも夕香ちゃんもやったりくっついてるし。

 ………。

お風呂でも入ろ…。



シャーー。

 シャワーから出るいくつものお湯の線があたしの体を通る。

 お湯が抵抗無く通るのがちょっと悲しぃ。ぺったんこだから胸に当たるとそのまますぐに床のタイルに落ちちゃう。

ほんのちょっとでもあればなぁ…。

むにむに。

揉んでみる。

女なのに胸の感触知らないなんて悲しいなぁ…。

むにむにむに。

なーんもなし。はぁ…。やっぱりあっくんも胸の大きい子が好きなのかなぁ?

ん…なんかどきどきしてきた。

 なんかあたし最近なんでもあっくん基準に考えてるよぅ…。

「姉貴ーっ」

「はんっ!!!」

 あうっ! 変な声出ちゃった!!

 あっくんが脱衣所からいきなり呼ぶからさぁ!

「…姉貴…どうかしたのか?」

 あっくんのこと考えてて胸触ってたらいきなり呼ばれたのでビックリしちゃったの…。なんて言えないよぅ…。

 ガラガ…。

あっくんが脱衣所から顔を出す。

「姉貴?」

「み…見るなぁぁー!」

 あたしは胸を隠してあっくんの顔を脱衣所に押し戻して引き戸を閉め切った。引き戸ががしゃんと大きな音を立てる。

「えっち! へんたいー! いきなりお風呂場の戸を開けるなんて最低!」

「いや、姉貴が変な声だすから何かと思ったんだよ。それに姉貴の裸なら何度も見てるだろ」

「うるさいうるさい! それより何の用!?」

「後輩のことだけど」

 朝香ちゃんと夕香ちゃんがどうかしたのっ?

「今日泊めるから」

 ……。

 へっ!?

「泊める!?」

「だから姉貴のパジャマ貸して欲しいんだよ」

「ちょ…ちょっと……!」

 嫌っ! ダメ!! 言おうとして、あたしは思った。

どうして嫌なの? どうしてダメなの?

 姉として、年頃の女の子を泊めるわけにはおかないから? 弟のふじゅういせいこうゆう(ふじゅん…だっけ)はまだ早すぎるから?

 ちがう。姉としてなんか関係ない。

 なにかがちがう。 あたしが「嫌」なワケは。


 あっくん。


「……いいよ」

「そうか、ありがとう姉貴」

 脱衣所からあっくんの気配が消えた。

 結局。あたしは姉としての自分を取った。

いや、普通そうだ。何であたしは迷ってたのかな。弟の交遊録なんてあたしには関係ないもん。あっくんが朝香ちゃんのことどう思ってようともね。

 でも、

「嫌だなぁ…」



 お風呂から上がる。

 さっぱりしたー。体から湯気が出てあったまってることがよくわかる。頭に巻いたタオルがターバンみたいで気分はインド人。

 とりあえず、二人を泊めちゃうのは構わないけどさすがにおんなじ部屋ってワケにはいかないから…あたしの部屋を朝香ちゃんたちに貸して、あたしはリビングで寝よ。

お姉ちゃんだからちょっとくらいなら配慮するのよん。えへへっ。

むー、なんかリビングから声が聞こえる。お父さんとお母さんは今日はいないから…声の主はどう考えてもあっくんと朝香ちゃんと夕香ちゃんだ。

 そーっと、リビングをのぞいてみた。

 ソファには相変わらずあっくんと朝香ちゃん夕香ちゃん。でもさっきとはちょっと様子が違った。

真ん中のあっくんに二人が腕を絡ませぎゅっと寄り添ってた。

「どっちにするんですか? 先輩…」

「どっち…?」」

「お姉ちゃんの方が好きなんですかぁ?」

「それとも妹のほうですか?」

「いや、別に好きって…」

 夕香ちゃんが顔を近づける。

「もしお姉ちゃんなら、あたしはこれから先輩のことを、お義兄ちゃんって呼びます!」

「…それはちょっと…」

「じゃあ夕香が好き?」

「あ、あたしが好きなんですか!?」

「だったら、せんぱいはわたしの義弟ってなりますね。せんぱいって言う呼び方を改めないと」

「あたしも恋人になったら先輩の事名前でよぶんだよね!」

 言いよどむあっくんに今度は朝香ちゃんが顔を寄せた。あっくんの顔がハンバーガーみたいに左右からの顔に挟まれた。どちらもおんなじ顔。

「それとも、これまでどおり先輩って呼んだほうがいいですか?」

「いや、呼び方の問題じゃない。それより…」

「「じゃあどっちが好きなんですか?」」

 二人の声がハモった。あっくんの言葉なんて聞いても無い。

「わたし、夕香より結構胸ありますよ?」

「お姉ちゃんには及ばないけど、あたしだっておっぱいおっきいよ!」

「先輩…」

「藤咲せんぱいっ…」

「「答えてくださいっ」」

 ぐいっと二人の体があっくんの体に乗った。

「…………」

「…………」

 朝香ちゃんの目はうるうると潤んでいた。夕香ちゃんの目はキラキラと輝いていた。ふたりとも、自分が選ばれると決め込んでいるみたい。

「…………」

 沈黙が支配する。あたしは家政婦のようにリビングから三人の姿に見入っていた。

「……えっと」

 数秒の沈黙の後、あっくんが声を出した。

 しかし、あっくんが言葉を続けようとした時。

「もしかして先輩っ」

 と朝香ちゃん。

「「二人ともおんなじぐらい好きってことですか!?」」

 ……ほえっ?

「…まぁ、二人とも好きなのは好きなんだけど…」

 それは友達として…だよね? あ・っ・く・ん?

「「ありがとうございますっ!!」」

 え。

 二人があっくんの体に歓喜の顔で抱きついた! 二人分の体重がすべてあっくんに支えられる形となる。とーぜん、二人の制服を押し上げる胸もふにゃっとあっくんの胸元に押し付けられてる。 むー。

「二人とも同時に好きって言われるなんて思っても見ませんでした!」

「お姉ちゃんもあたしも、できれば三人一緒がいいって思ってたんです!」

「は…はいぃぃぃぃ??」

 弟の顔に困惑の色が浮かび、あたまにはくえすちょんまーくがぽっぽっぽっぽっぽっぽっと六つぐらい並んだ。

あたしもおんなじだった。ぽかんと口を開けたまま、リビングで起きたキミョウキテレツマカフシキソウテンガイシシャモジュウデマエジンソクラクガキムヨウに驚いていた。ってなにラクガキムヨウって。

「じゃあ夕香。わたしは先輩の右半分を貰います」

「うん、じゃああたしは先輩の左はんぶーん。これではんぶんこだね!」

「そうですね、ね。先輩?」

「……」

 あっくん?

「ちょっと。ありえねぇ…」

「はい?」

「ごめん、二人とも。ちょっと考えさせてくれ」

 そういうとあっくんは二人から腕を振り解き、立ち上がった。顔には困惑の色が浮かんでいる。

 あっくんはトイレでも行くのかあたしがのぞいてるほうへ歩いてきた。慌てて顔をしまう。お風呂上りのあたしの体は湯冷めしてちょっと冷えてたけど、頭と心臓はどきどきしてとても熱い。

「あ、姉貴…。風呂…、あがったのか…」

 あっくんがあたしの存在に気付く。あっくんはあたしがずっと覗いてたことに気付いてないみたい。

 聞きたかった。あっくんのキモチ。いまのあっくんの…キモチ。

好きなの? って。

「あっくん」

 あっくん。

「なにか、お姉ちゃんに話すことあるでしょ…?」

 聞かせて。今のことを。そして自分の気持ちを。

 そう考えながらも頭の片隅には、なんでこんなにあたしが焦ってんだろうという思いが浮かんでいた。

「姉貴…? 話すこと…?」

「うん…」

 ……。

「ああ…」

 そしてあっくんは申し訳なさそうに言った。

「姉貴のパジャマ…全部ちっちゃくてあいつらが入るヤツが無かった」

 ぷっちーん。


パァン!!!!!


 あたしはあっくんの頬をぶっ叩いてやった!

 そういうことじゃないの!! しかも何気に傷ついた!!

「馬鹿っっ!!!」

 あたしは何が起こったのかわからないような顔のあっくんにそう叫ぶと、自分の部屋に走った。

振り返らなかった。

 ちょっと口元がしょっぱい味していた。



あたしの部屋は6畳の広さで部屋隅にはちょっと大き目のベッド。

そのベッドのウサギのヌイグルミとウサギ柄の布団にあたしは顔を擦りつけていた。

もう、涙は出てない。

あるのは、なんだかよく分からない感情だけ。

「はぅ〜…」

 このため息も何度目かな…?

 時計を見ると十一時半。いつもならもう寝て夢の中に居る頃だ。そう思うとすこし瞼が重くなった。


トントン


 部屋をノックする音。

「姉貴…?」

 あっくんだ。

 さっきの手前、顔を合わせたくないけど…。明日になれば嫌でも顔を合わせちゃう。あたしたちはいつも一緒だから。

だから、入るように促した。

それにこの部屋には鍵がかからないし。

「姉貴…」

 あっくんが入ってきた。

「朝香ちゃんたちは?」

あたしは顔をヌイグルミに押し付けたままで聞いた。

「ああ、帰ったよ」

 え。

「泊まるんじゃなかったの?」

「うん、そのつもりだったみたいだけど、なんか急に『やっぱり泊まれない』って言い出してな」

「送ってかなくていいの?」

 ちょっといじわるにあっくんに甲斐性を求めてみる。

「いや、家歩いて五分のところのマンションだし」

 げっ、意外と家近い。あの二人これからもちょくちょく来るかも。

「姉貴、さっきは…ゴメン」

「…いいよ。どーせあたしは幼児体型だから」

 七宮姉妹を思い出してみる。

落ち着きのあるお姉さんと元気いっぱいな妹さん。

「はぁぁ…」

「どうしたんだ?」

 ちらと横を見るとすぐそばにあっくんの顔があった。あたしの顔を覗き込んでた。いきなりだったのでちょっとどきどき。

「えっとね…、朝香ちゃんたち」

「ああ、あいつらか」

「羨ましいよ…」

 うん。羨ましい。

 でもこれは、あの子たちがあっくんのことを好きになれるからとはちょっぴり別の理由なの。

「あんなふうに、あたしもあっくんと本音で喋れたらいいのになぁ…」

 そうだ。あたしは…あっくんに隠してる。

「なんだよ、姉貴。俺に本音で喋ってないのか?」

 あっくんだってそうじゃない! いつもいつも本音を隠してるでしょ!

「俺はいつでも姉貴に本音で喋ってるのになぁ」

 …ほぇ。

「いつも。本音?」

「そうだよ。だから結構キツイことも言っちゃうけど…。さっきもさ」

 そっか。

 本音を隠してると思ってたのはあたしだけだったんだ。当のあたしが本音で喋ってないからかな…。

むかし見たテレビでは『嘘つきは泥棒の始まり』っていうのは嘘をつくと相手も嘘をついてると思い込むようになって人を信じれなくなっちゃうから泥棒になってしまう…って言ってた。

用はそれとおんなじことなのだ。

「好き…」

 初めて、本音で、言ってみた。

「ん、姉貴。なんつった?」

 でも聞こえないよね、これは…隠してるわけじゃなく……。

 今のあたしにはまだ言えない言葉だから。

「ううん、なんでもない」

 あたしは体を起こすと覗き込んでいたあっくんにもたれかかった。あっくんの固い体はすっきりとしてていつまでもくっついていられそう。

「あっくん。今日も一緒に寝よう」

「またか」

 あっくんは呆れたような声を出したが、嫌がってるようには聞こえないもんね。

「最近、よく一緒に寝るよな」

「いいじゃない。じゃあ、暗いの怖いから一緒に寝るっ! これじゃダメ?」

「いいよいいよ。じゃあ俺マクラ取ってくるから」

「うん!」

 あっくんから体を離すとあたしは満面の笑みで頷いた。

あっくんもなんだかよくわからない顔で(多分嬉しいんだろーね)こっちに微笑むと、そのまま部屋を出て行った。隣の部屋であっくんが枕を取ってくる音が聴こえる。


えへへっ。


 少なくとも今だけは。


あっくんは


 あたしのものだもん!


「お姉ちゃんサイコーっ!」

 あたしは小さな声でガッツポーズした。




――――END



今回の作品を書いて:
@ ロリ姉目線での状況説明はなんつーか読みづらいので後半部分からセリフ主体に変更。
A ロリ姉の精神年齢がちょっとあがってる。
B シリアス風味混ぜたのは失敗かな? 普通のラブストーリーになっちゃってる。次回以降はコメディで行きたいなぁ。
C エロ描写勉強中。といっても何で勉強すればいいんだ。
D 当初双子が弟に夜這をかけるというおまけがあったが、そろそろ本当に長くなってきたのと内容を変化させたのでカット。いつか双子主役で書きたいなぁ。まぁ、双子登場は明らかに双恋とチャットの皆さんの影響なんですが。
E 後半ロリ姉の気持ちをゴマかしてます。だって近親相姦フラグたっちゃってるもん。
F ちなみに今回、タイトルを反転すると…
G 次回はゲスト編第一弾の予定。某三人をキャラとして招待します。
 でも一人まだ許可とってない人がいるので、次回繰り越してカズママ編になっちゃうかも。





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