ロリ姉の日常。
作:紅アゲ



 あたしのお父さんとお母さんは毎週木・金は泊りがけでお仕事。

 だから、その二日の夕飯はあたしと弟で作るの。

 木曜は弟で、金曜はあたし。

今日は木曜だから、夕飯は弟の当番。

今日のメニューはビーフシチューだった。

あたしの弟は顔に似合わず料理が得意。なんでもかんでも美味しそうにつくっちゃう。お肉料理もお魚料理もお野菜料理も。

 まるで魔法みたい。くやしぃっ!

 テーブルにのったビーフシチューはあたたかく、ふわふわと湯気を鳴らしてる。あたしはそんなビーフシチューをかき混ぜるとゆっくりと咽を通した。

酸っぱくて美味しい。

いったい弟はどこで料理の腕を磨いたんだろ? 料理し始めたのはおんなじ時期だったのに!

「姉貴。聞いてるか?」

「えっ、何?」

 あれ、弟何か言った?

「聞いてないのか」

「あ…、うん。ごめん」

「たくっ。どーせ今日のテレビ何やるかとか考えてたんだろ? 今日は何も面白いのはねーよ」

「ちが…」

 ちがうもん…って言おうとして途中で止めた。本当は弟の料理の腕に感心してたからなんだけど、言わない。だって誉めると「姉貴もこんぐらいつくれよ」っていうに決まってるんだもん。

 お姉ちゃんだから弟の言う事なんてなんでも予測できるの。ふふん。

「姉貴!」

「あっ、ごめん。で、なに?」

 おっとっと、また聞いてなかった。

「だーかーら、明日から姉貴の当番の夕食も俺が作るって言ってんだよ」

 え。

「ええーーーーー!?」

「そんなに驚くことかよ」

「ダメ! ダメダメダメ!」

 実はあたし、弟の友人らから自分がなんて言われてるか知ってる。あたしのクラスメイトから言われていることとおんなじだ。

『ロリ姉』。

 なんでも姉のくせに幼いからロリ姉なんだって。

あたしの体、スリーサイズは言えないけど実小六の頃から変わってない。中二の頃から付けてる自分の体の性徴日記は三年前からほぼ横ばいだ。さらにあたしのクラスメイトから見ればあたしはしぐさも幼いらしく。よく友達に「授業中居眠りしては寝ぼけるロリ姉」となんでもかんでもロリ姉をつけてかからかってくる。

 そんなあたしも、弟の前では姉としての威厳を保つようにしてた。

でも最近の弟は背が高くなって、性格も大人っぽくなりあたしのクラスメイトのようなことをどんどん言うようになった。まるで、あたしのほうが妹みたい! もう、あたしのほうが二歳も年上なのよ! あんたなんて因数分解まだわかんないでしょ!

だんだん姉としての威厳も薄れてきたあたし。

 そんな生活の中でこの週一回の料理の日だけはあたしが姉としての威厳を保つ最後の砦だったのだ。

が…。

「なんであっくんが明日も作るの!?」

 あっくんとは弟のことね。

「別にいいじゃん。いつもいつもめんどくさいめんどくさいって言いながらつくってるだろ」

「そ、そうだけど…! でも料理は好きだもん!」

「レトルトカレーは料理とは言わん」

「はぅ!! りょ…、料理だもん! それに、たまにちゃんと食材買ってきてつくる時もあるじゃない!」

「んで、できたのがマヨネーズうどんか」

「う…」

 マヨネーズうどん。それはあたしが料理に失敗して、緊急に作ったやつ。味は…想像のとおり。

「そんな二週間前の話思い出さないでよ! 昔の話じゃない!」

「アレはひさしぶりに効いたなぁ…」

「むぅっ、あっくんだってお味噌汁が味噌でできてること知らなくてピーナッツバターで味付けたことあった!」

「それは三年前の話。姉貴自分がピンチになるとなんでもその話に持ってくるよな」

「ふ…ふにゅう…」

 は…反論できない。

「別にいいだろ? 姉貴よく包丁で怪我するし、見てるこっちがハラハラするんだよ。それに俺の料理がまずいって言うわけでもないんだろ」

 うん、まずくないよ。むしろすっごく美味しい。思わずおかわりしたいけど、今はちょっとダメ。

 あたしはずずずっと音を立ててスプーンにすくったシチューを飲み込んだ。

「姉貴、行儀悪い」

「あぅ、ごめん」

 スープを音を立てて飲む癖がまた出ちゃった…。

「でも…料理は…」

「姉貴、そんなに料理好きだったっけ?」

 料理は好きなわけじゃない。どっちかといえばめんどくさいけど…。でもそういうことにしちゃえ。

「うん! あたしね、実は料理大好きなの」

「嘘」

「……」

 なんでいつもあたしの考えてる事見抜かれるんだろお。

「とにかく、これからは俺が料理作るから。姉貴はその間風呂に入って、秘密のバストアップ体操でもやってなよ」

 はぅッッ!

「な…なんであっくんが秘密の体操のことしってんの!?」

 バストアップ体操、あたしがお風呂で毎日やってる胸をおっきくする体操のこと。とあるテレビ番組で見てずっと試してるんだけど…今のところ効果はナシだったりする。いまだにあたしのブラはAのまま。ぺったんこ。

 胸のことはいいの! それよりなんで弟があたしの体操のこと知ってるのよ!

「あぁ、やっぱりアレやってたのか」

 え。

「熱心に見てたから実践するかな?って思ったけど…やっぱりやってたんだな」

「あうぅぅ…」

 なんで、弟はこんなにあたしを苛めるのよう。何よぉ…あたしは弟の事何も分からないのに何で弟はあたしのこと手にとるように分かるのよう…。あ、なんか泣きたくなってきた…。ダメダメ、弟の前で泣くなんてまた子ども扱いされる。とりあえずシチューを飲んで美味しさでごまかさなきゃ…。って、シチュー全部飲んじゃったよぅ…。

「ああ…、姉貴。泣きそうな顔するなよ」

「泣いてないもん…」

「うん、それはわかるから泣きそうな顔は、って…」

「うっ…泣いて…ぅうう」

 視界が水彩絵の具を垂らしたようににじんできた。うるうる?

 あー…、あたし泣いちゃった。やっぱりあたし泣き虫だ。

「姉貴ー、泣くなよー…」

 弟が悲しそうな顔をする。弟はあたしに対してはキツイけど、あたしが泣くととたんにやさしくなるのだ。えへへ。

「わかったよ姉貴、泣くなよぉ」

「うう…うぅ…」

「泣くなって、料理当番はそのままでいいからさぁ」

「うっぅ…」

 えへ。

「姉貴ぃ…。もぅ、勘弁してくれよ。悪かったって」

「………」

「姉貴?」

「…えへっ」

「嘘泣きか?」

「バレた☆」

 えへへへ。弟はあたしの嘘泣きだけは見抜けないの。弟は本当はすっごくやさしいんだも〜ん。

「姉貴〜…おい…」

「えへヘ! じゃあ明日はあたしの料理当番だね!」

「いや、それは…」

 もうダメだもん! 男なら二言は無いもんね!

「すぐに嘘泣きだと気付かなかったあっくんが悪いんだよっ! わーい、ばかあっくーん♪」

「…くそ、まただまされた…」

 料理以外にも姉の威厳を保ってるものがある。すくなくともこの嘘泣きは効果絶大なの。

えへへ、悔しがってるあっくん可愛い。

コレに懲りたらもう幼いなんて言わないでね!

あたしは………お姉ちゃんなんだから!




ロリ姉、おわり





おまけ(ここからが重要)

 その日の夜…。

「あっくん…」

 あたしは寝るときには欠かさず持っているウサギのヌイグルミを持って弟の部屋をノックした。

「なんだよ姉貴、夜中に」

 弟はTシャツと半ズボンをはいて部屋から顔を出す。あ、よかった…まだ寝てないのね…。

「……怖くて…」

「…あん?」

「…怖くて……眠れないの……」

 弟に見栄を張って怖い映画なんてみるんじゃなかった。夜目をつぶると白いもやもやしたお化けがあたしの部屋をふわふわたくさん飛んでいる気がして怖いの…。

「あー、たしかにあの映画は結構怖かったしな」

「…だからお願い……。一緒に寝させて…?」

「ダメ」

 弟はドアを閉めようとした。

「あぅ! あっくん! ごめんなさい!! おねがい、一緒に寝させて!!」

 あたしはドアを掴んで弟がドアを閉めるのを止める。もう、この薄暗い廊下に居るだけでも怖くて仕方が無い。

「姉貴十七だろ。いい加減大人になれよ…」

「怖いものは怖いの…! お願い…あっくん。 一緒に寝ようよ……」

 この際、お姉ちゃんとか歳とか関係ない。

「このままだと、お姉ちゃん…怖くて………怖死しちゃう………」

「姉貴。それを言うならショック死だ」

 こんな状況でも耳ざとい弟…。でもいまはそんなこと怒ってられない。

「寂しいんだよう………お願いだよぅ……それともぉ…あっくん、お姉ちゃんの事嫌いなの……?」

 あたしの目がうるうる潤んできた。マズイ、今度は本当に泣きそう。

「姉貴、また嘘泣きか? 一日で二回はさすがに気付くぞ」

「…うっ……嘘泣きじゃないよっ……本当に怖いのっ………! あっくん〜……うっうっ」

 頬に冷たい感触。あぅ、あたし。本当に泣いてる。

「………わかったよ。姉貴、入れよ」

 とうとう弟が折れた。

「うぅっ……あっくん……ありがとぅ…!」

 あたしは弟に心から感謝した。

 弟の部屋は質素で勉強机とMDコンボとクローゼットは全て白で統一され、部屋の隅には一人用のベッドがある。

「じゃあ…姉貴ベッド使って。俺は床で寝るから」

 あたしは無言で弟のTシャツを掴んだ。

「………」

「………」

 ごめん。あたし…寂しい。

「…わかったよ……ちょっと狭いけど我慢しろよ」

 えへへ。

「ありがとぅ」

 やっぱり弟は優しいや。お姉ちゃん大好き。

「電気消すぞ」

 ぱちっ。

部屋は一瞬で真っ暗になったけど、あたしはもう寂しくなんか無い。横で弟がベッドに入ってきた。ベッドが狭いから肩が当たって寝ずらいけど構わない。むしろすぐ傍に居る事が確認できてとっても安心するの。

「あっくん…」

「姉貴…ちょっと……くっつきすぎ」

 そんな声は無視する。弟と一緒に寝るなんて何年ぶりだろう? 弟は細身だけどしっかりとした体つきでとっても頼もしいや。

「ZZZ…」

 あたしは、すぐに眠りにつくことができた。

 もぅ、目をつぶっても怖くない。すぐそばに…弟が居るからね。






「姉貴…寝たのか…?」

「…」

「姉貴…ちょっと、顔くっつきすぎだって…」

「……」

「姉貴っ、足を絡ませるなっ! 実は起きてるだろ!」

「………」

「姉貴……!」

「………すー…」

「本当に寝てるのか……?」

「……………」

「しょーがねーなー…」

 えへへっ。





―――――END







スペシャルサンクス:
暴君ハバネコさん、ACさん、さやかさん(thank you!!!)





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